Mobile Ecosystems: Competition, Choice and User Protection – Japanese Translation
Below, we have provided the Japanese translation of the full transcript of our panel discussion Mobile Ecosystems: Competition, Choice and User Protection. Read below to see the timely discussion where a panel of experts deepened the discussion regarding this topic, and how it specifically relates to Japan.
大軒 敬子:
こんにちは、大軒敬子です。 本日、CPIのTVプログラムの モデレーターをさせていただきます。 『モバイルエコシステム:競争、選択、ユーザー保護』 というトピックです。 デジタル経済における競争は、明らかにエコシステム間の 競争となりつつあります。 今回のパネルにご参加いただくのは、 これらの問題の最前線にいる弁護士と学者の方々です。 角田龍哉弁護士、西村あさひ法律事務所より。 神戸大学より、善如悠介 准教授。 OECDのコンサルタントより、レニ・パパさんです。 初めにオープニングの言葉、そしてそれについて話し合いながら 質問をしていきます。 では始めましょう。 ではまず、悠介さん、モバイルエコシステムの経済状態についてお話いただけますか?
善如 悠介:
この問題について話す機会をいただき有難うございます。 最初は英語で話しますが、途中から日本語に切り替えると思います。 経済学の観点から、モバイルエコシステムについてお話ししたい点が2つあります。 1つ目は、状況によっては独占が必ずしも悪いことではないということです。 特にネットワーク商品に関してです。 2つ目は、モバイルエコシステム内の様々なサブマーケットでの競争の存在に関連しています。 1つ目の点では、ご存知のように、最近の政策論議では、非常に高レベルな市場集中が大きな問題となっています。 例えば AppleのApp StoreとGoogleのPlay Storeは各モバイルOS市場でほぼ独占的なゲートキーパーの地位にあると批判されています。 しかし、経済繁栄の観点から言うと独占は必ずしも悪いわけではありません。 特にネットワーク外部性のある市場では。 例として、次のような状況を考えてみましょう。 市場では複数のネットワークが競合しています。 そして、それらは全く互いに互換性がありません。 この場合、ユーザーは別々の ネットワークに分割されます。 そして、こうしたユーザーの分裂は、ユーザーが大きなネットワークを楽しむことを困難にします。 対照的に、独占ネットワークが市場に存在する場合、すべてのユーザーが同じネットワークに入ることで、最大規模のネットワークやネットワーク帯域幅を楽しむことができます。 そこで、市場環境によっては、このネットワークサイズの拡大によるメリットが、価格上昇による悪影響を上回ります。 その場合、独占はより高度な社会福祉や消費者サービスをもたらすことができます。 もちろん、独占会社が消費者に対し、非常に高額な価格を設定した場合、これは当てはまりません。 これが私の最初のポイントです。 そして、2番目のポイントはもっと重要だと思います。 また、ご存知のとおり、モバイルエコシステムの現状は、非常に複雑です。 様々な種類のサブマーケットがあります。 さらに重要なことは、これらのサブマーケットは互いに密接に 相互接続されていることです。 これは他の製品市場には見られない、モバイルエコシステムの面白い特徴です。 したがって、人によっては、各市場内だけでなく、異なったサブマーケット間でも 競争があると考えられます。 そしてこの場合、各サブマーケットに 独占企業が存在する場合でも、そうした異なる市場を支配する独占企業間の、市場の壁を越えた 競争を促進することができます。 したがって、これが実行可能であれば、ネットワーク効果を犠牲にすることなく、非常に良い競争環境を実現できると思います。 これが私の2番目のポイントです。 ご清聴有難うございました。
大軒 敬子:
悠介さん、有難うございました。 では、龍哉さん、いかがですか? モバイルエコシステムに関する日本の競争法の現状は?
角田龍哉:
敬子先生、どうも有難うございます。 日本の競争の観点から状況を紹介させていただきます。 ご存知と思いますが、悠介先生がおっしゃったように、日本では他の国と同じように、モバイルデバイス、モバイルOS、アプリケーションストアなどの 基本層、つまり必須な層は、Apple と Googleといった2社のプレーヤーによる売り手寡占の対象となっています。 これに関連して、公正取引委員会(JFTC)は、最近、近年のモバイル市場およびアプリケーションストア市場に関する市場調査を行なっています。 これに加えて、今年の9月、JFTCはAppleが支払い方法の制限を修正し、アプリケーションの審査に関するガイドラインを改訂または更新した後、Appleに対する調査を終了すると発表しました。 それは、アプリ開発者にとって不透明なことです。 さらには、今年の4月からアプリケーションストアは、日本の新しい規制、「デジタルプラットフォーム取引透明化法」の対象となりました。 これは、経済産業省によって管理されています。 この結果として、指定されたアプリケーションストアの運営会社、つまり、GoogleとAppleは、アプリケーションストアの利用規約の透明性を確保する必要があり、十分な情報を、利用規約を変更する際には事前通告することが必然化されました。 これらの状況を考慮する際に初めに目を向ける 点として注意が必要なのは、モバイルエコシステムがどのようにデザインされるかは独断的に各事業者が決定することが可能だということです。 一方、日本の現在の競争状況を考慮する際、一般的な考え方として、モバイルエコシステムの構造は、一般消費者だけでなく、 エコシステムの最大のプレーヤーにも大きな影響を与える可能性があることにも注意する必要があります。 したがって、日本にとって今重要なのは、エコシステム間の競争の促進、また、プラットフォーム上での競争の 促進を確保することなのです。 それが現状についての私の最初の見解です。 以上です。
大軒 敬子:
龍哉さん、最近の日本の状況の 動向についてお知らせいただき有難うございました。 JFTCは他国の競争当局とも連絡を取り合っており、私たちは他の機関や他国の見解にも関心があります。 レニさん、外国人の視点から私たちと意見を共有していただければ幸いです。
Leni PAPA:
有難うございます、敬子さん。 まず初めに、この非常に重要でタイムリーな、モバイルエコシステムに関する話し合いを企画してくださったCPIに感謝します。 それでは、少しさかのぼって、日本以外でのこの経済状況などを説明しましょう。 では、なぜそれがパンデミックの時に特に重要なのでしょう。 OECD諸国では、2020年にはOECD諸国全体で、モバイルデータの使用量が平均15%以上増加し、モバイルブロードバンドのサブスクリプションが 3.6%増加。 その中でも日本で最も高いモバイルインターネット普及率の伸びを示しています、住民100人あたりと同様に。 失礼、住民100人あたり 185%の サブスクリプションでした。 また、各国がパンデミックの回復に向けて努力している今、モバイルエコシステムは特に重要です。 ヨーロッパで見られたように、モバイルテクノロジーはGDPの 大部分を生み出しているからです。 ヨーロッパのGDPの4.6%だったということは、約240万人の雇用に相当します。 そのため、多くの国際機関やシンクタンクは、我々がより素晴らしくより包括的な社会を構築するために各経済を活性化する際、モバイルエコシステムが非常に大きな役割を果たすと認識しています。 ですから、このような背景を踏まえ、現在、他国のさまざまな展開を観ております。 つまり、悠介さんがおっしゃったように、 モバイルエコシステムには成長傾向とともに懸念が高まってきていると言えます。 それは、少数の主要なデジタルプラットフォームが市場を支配する地位に定着していることです。 このことを米国においても見てきました。 つまり、米国の独占禁止法小委員会による 2020年の報告で、Amazon、Apple、 Facebook、Googleの4つの最大のデジタルプラットフォームについていくつかの点が記してありました。 まず第一に、これらのプラットフォームが ゲートキーパーの役目をしており、主要な流通経路を制御しています。 彼らは市場にアクセスでき、経済全体での勝者と敗者を選ぶことができます。 これはEUでも懸念されていることです。 EUのデジタル市場法案の説明メモにあるように、ヨーロッパのデジタル経済には、10,000のオンラインプラットフォーム プロバイダーがありますが、そのほとんどは中小企業で、少数の大規模なオンラインプラットフォームが、全体の生産価値の大部分を占めています。 そして、これは数々の、EUの地域レベルか国レベルで決定済みのケース、または、現在追求されているケースで明らかになっています。 最もよく知られている判例の一つは、 多分、EUの一般裁判所により最近、支持されたGoogleショッピングの事例です。 それに対するGoogleの控訴を一般裁判所は却下しました。 そして今、ご覧の皆さんにも言えるのは、このケースがGoogleの自社利益優先と 関係することです。 Googleは独自の検索エンジンを使用しました。 EEA市場の市場シェア90%以上は、 それが占めていますね。 また、Googleは、EEAの13か国のオンライン一般検索サービスの市場での支配的地位を濫用しました。 したがって、欧州委員会の主張は、自社の比較ショッピングサービスを他社のものより優遇したというものでした。 また、非常に、非常に、非常にごく最近、実際、文字通りほんの数時間前に、イタリアの競争当局はAmazonに対し、同社が市場での地位を濫用したとして最高の罰金を科しました。 同社のオンラインマーケットプレイスでの販売者が同社の物流サービスにも登録した際に、同社が不法に販売者にベネフィットを与えていたことが発覚したからです。 そしてその逆に、Amazonのサービスをフルに利用しなかった販売者は、Amazon Primeの顧客に提供された特典を利用できなくなったということでした。 また、米国やEUだけでなく、アジアにもいくつかの例があります。 特に韓国ではNAVERのケース。 韓国最大のオンライン検索エンジンNAVERに対し、韓国公取委は、同社が市場の独占的地位を濫用し、契約条項を締結するときに契約プロバイダーがNAVER不動産プラットフォーム事業のライバルに情報を提供することを妨げ、罰則を科したことを明らかにした事例でした。 そして、こうしたケースが起こった後に、世界中でいくらか政策の進展がありました。 それらについては、おそらく後で より詳しく説明しますが、多分、既に採用された様々な方策を要約するだけになります。 一部の法域では、競争法を改正することを選択しています。 現在の法律では、モバイル経済におけるこれらの懸念に対処するには不十分であるという議論に基づいてです。 合併法を改正しようとしている法域もあれば、モバイルエコシステムを綿密に監視する ためにデジタルマーケットユニットを制定または設立しようという法域、また、EUや英国のように事前規制オプションを準備または 提案している法域もあります。 ですから、これは日本でも議論されていると思いますが、モバイルエコシステムで特定された問題の解決策となる行動規範の開発が進んでいます。 以上です、敬子さん。
大軒 敬子:
有難うございました、レニさん。 様々な管轄区域の観点から 見解を共有していただきました。 さて、皆さんのオープニングのお話を参考に、論議の主な構成を立ててみました。 さっそく最初の質問に移りたいと思います。 最初の質問は、悠介さんとレニさんにお伺いします。 悠介さんがお話くださったクロスマーケットでの競争について、どう思いますか? 例えば、アプリプラットフォームと 広告プラットフォームの間など? 悠介さんはこの分野の専門家で いらっしゃることは知っています。 そこで、専門家としての考えを教えてほしいです。
善如 悠介:
有難うございます。 オープニングで述べたように、市場の壁を越えたクロスマーケット・ プラットフォームの競争は、優れた政策立案をより適切に実施するための良い 方法となる可能性があります。 本日は、私の最近の研究成果について主にお話したいと思います。 その研究では、アプリプラットフォームと広告プラットフォーム間のクロスマーケット競争に関する複雑な関係を探求しようとしています。 特に、アプリプラットフォーム市場では、ご存知のように、AppleとGoogleがゲートキーパーの立場にあると批判されてきました。 しかし、彼らは完全な独占者ではないと私は思います。 なぜなら、彼らは別のタイプのプラットフォーム、 つまり、広告仲介業者またはアドテク企業と競合しているからです。 これらの広告仲介プラットフォームにより、アプリ開発者はアプリの販売ではなくアプリ内の広告によって収益を上げることができます。 実際、アプリ開発者の90%以上がこのビジネスモデルに依存しています。 つまり、彼らはアプリを無料で配布しているのです。 そして、Apple の App Storeや Google の Playストアなどのアプリプラットフォームに手数料を支払うこともありません。 そこで、アプリプラットフォーム市場と広告プラットフォーム市場の間の クロスマーケット・プラットフォームの競争を考慮することは非常に重要だと思います。 しかし実際には、AppleとGoogleは 現在、手数料削減を求める社会的圧力に直面しています。 そして今年、彼らは一部のアプリの手数料率を30%から15%に引き下げました。 それと対照的に、CMA報告書と呼ばれる英国政府の報告書によると、広告価値の少なくとも35%をアドテク企業に奪われています。 広告プラットフォーム市場では35%ですよ、アプリプラットフォーム市場で15%のところ。 かなり不均衡ですね。 つまり、広告手数料はアプリの手数料よりもはるかに高くなっているわけですよね。 したがって、これらのことは、App Storeや Google Playストアなどのアプリプラットフォームに対する最近の社会的な圧力が、もしかすると、モバイルエコシステムの 現在の状態におけるクロスマーケット競争のバランスを歪めているかもしれないということです。 もしそうなら、状況は悪い方向に 進んでいるように思います。 これが、今のモバイルエコシステムに関して私が一番懸念していることです。 以上です。
大軒 敬子:
有難うございました、悠介さん。 プラットフォーム間の競争に関する経済的見通しを説明していただきました。 では、レニさん、悠介さんのお話に対する考えを共有していただければ幸いです。
Leni PAPA:
有難う、敬子さん。 そして悠介さん、興味深いお話を有難うございました。 実際、OECDの最近の研究と同じ路線です。 したがって、この、国境を越えた調査では、デジタル市場が関与するクロスマーケット競争に関する多くの懸念を実際に要約しています。 そのいくつかを簡単に説明しましょう。 順番に言いますと、まず第一の懸念は、自社利益優先です。 広告枠を販売し、パブリッシャーと広告主の仲介役として機能するプラットフォームには、独自のものを優遇する動機があります。 また、批評家によっては、デジタル広告のサプライチェーンの 特定のプラットフォームが消費者とデータへのアクセスに関し、自社の事業ユニットに優遇措置を与えていると議論しています。 2番目の懸念はレバレッジに関係します。 論評者たちが提起した懸念は、デジタル広告サプライチェーンの一部に市場支配力を持つ垂直統合型企業が、その市場支配力を サプライチェーンの他の部分にも活用できてしまうのではないかということです。 そしてレバレッジの成功率が上がるのは、市場支配力を持つプラットフォームが市場の様々な側面への切り替えを他社には困難にしてしまえる状況です。 また、クロスマーケット競争に関するもう1つの懸念事項は、ユーザーデータの収集です。 特にCMAからですが、懸念の声が上がっているのは、特定のプラットフォームが市場支配力を悪用して大量の消費者データを収集する可能性があるということです。 それは、ターゲット広告、特にディスプレイ広告が目的です。 また、CMAは、消費者の多くは、サービスを使用するときに共有している情報についてあまり理解していないことが発覚しました。 そして、この議論が、ドイツ連邦カルテル庁によるFacebook訴訟の大きな特徴です。 独カルテル庁は、Facebookの利用者が、個人情報に関する同社の条件について、有意義な同意を していなかったことを表明しました。 ですから、そういったことは、悠介さんの研究内容とかなり一致していると思います。
大軒 敬子:
有難うございました、レニさん。 レニさんがFacebookの事例について触れました。 特定のケースです。 そこで龍哉さんに、モバイルエコシステム または、エコシステムに関連した最近の日本の事例を共有していただければと思います。
角田龍哉:
大変有難うございます。 最近の日本のデジタルプラットフォームの事例については、先ほどお伝えしたように、公正取引委員会がAppleに対して調査を行いました。 このケースはデジタルコンテンツ関連のアプリケーションセクター、中でも音楽、ビデオ、電子書籍のアプリに 多く関連していますが、Apple社の約束は、アプリケーションプラットフォームの透明性の向上に貢献する可能性があります。 そして、お伝えしたように、取引透明化法は、将来的にはアプリケーションストア全体の透明性も向上させることでしょう。 このアプローチは、レニさんが先ほど説明されたように、国際的なアプローチと概ね一致している可能性があり、モバイルエコシステムの競争状況を改善できるかもしれません。 しかし、モバイルエコシステムに関する独占的状況を対処または理解するためには、まだこれからも議論すべき問題があると思います。 今年の12月、公正取引委員会は、日本の大手eコマースプレーヤーである楽天に対する捜査を終了すると発表しました。 この判例では、楽天が、一定額以上の注文の配達が送料無料になることを目的に、対象店舗の配送料に関する条件を一方的に変更したとされています。 そうした行為は、優越的地位の濫用と見なされます。 一方、楽天は、この条件変更により市場全体の効率が最適化されるのだと主張しました。これは、Amazonなどの強豪プレーヤーと競争する上で重要である、ということでした。しかし、それにも関わらず、 訴訟は今まで続いていたのでした。 これは、アプリケーションストアが透明性を確保しながらアプリケーションストアの完全な最適化を図るとしても、プラットフォーム上の中小企業の競争力を保護することは、まだまだ困難であることを意味します。 さらに、複数のアプリケーションストアがより大きなプレーヤーと競争しようとしているという事実は、彼らの行動や行為を正当化するものではなく、日本の独占禁止法の、現在の分析の フレームワークの下で中小企業の保護が優先されることになるかもしれません。 だから私も、市場間の競争に焦点を当て、その分析を行い、独占禁止法に基づく評価をも考慮する必要があることに同意します。 しかし、最近の執行事例を考えると、最近のフレームワークが十分でない可能性があること、もしくはある程度更新または近代化する 必要があることを意味します。 これが日本の最近の状況についての私の見解です。
大軒 敬子:
龍哉さん、有難うございました。 今お話しいただいた楽天のケースは、興味深いケースであり、 難しいケースでもあると思います。 楽天は他の企業と競争するために その計画を立てようとした・・・他の企業とは楽天の競争相手を意味します。 しかし、それはJFTCから考えると、楽天がユーザーや利用会社に対し、優先的地位を濫用した可能性があるということでした。 では、悠介さん、これについての見解を伺えますか。経済学者は何でも解決できると 私は何となく信じているのですが。
善如 悠介:
有難うございます、敬子さん、 このトピックについて話す機会をくださり。 私の意見では、楽天の配送料ポリシーに関する現在のJFTCの決定は、楽天の第三者の販売人に対する優越的地位や支配的地位の濫用に基づいていると思います。 この判決はつまり、プラットフォームと、第三者である販売者との間の関係の要因のみを考慮して行われたということです。 そして、このケースでは消費者の視点は 考慮されていないということです。 私は、消費者保護を検討する方法がほかにもあると思います。 しかし同時に、プラットフォームによる行為が、売り手側だけでなく消費者側にとっても有益または有害であるかを特定することは非常に難しいと思います。 ですから、この点について具体的な答えはありませんが、これは世界中でもっと考えるべきだと思います。 以上です。
大軒 敬子:
では、次の質問に移ります。 次の質問は主にレニさんと龍哉さんにします。 このセッションの題名は『モバイルエコシステム:競争、選択、ユーザー保護』ですが、ユーザー保護はどう行える、または 行われるべきなのでしょうか。 レニさん、いかがでしょう。
Leni PAPA:
はい、有難うございます、敬子さん。 この点に関しては、モバイルエコシステムのユーザーを保護するための政策方法として、それぞれの法域で様々な種類の方法が検討されており、それは基本的には、3つに分けられます。 1つ目は、異なったプラットフォーム間の利益相反に対処しようとする措置であり
反競争的行為を引き起こす可能性があります。 それが1つ目です。 2つ目は、潜在的な反競争的行為を管理することです。 これには自己参照とレバレッジ関連が含まれます。 そして3つ目は、市場の不透明性に対処することです。 したがって、1つ目は、利益相反を 管理するという観点からすると、様々なアプローチがあります。 それに含まれるのは、第一に、関連する様々な事業者の間を構造的に分離するという提案で、その後、CMAの推奨の下で、モバイルエコシステムに構造的分離の救済策を課すことを専門とするデジタルマーケットユニットを設置するという点がありました。 そして、これは米国の下院側でも見られます。 米国下院は独占禁止法報告書で、米国議会に対し、より大きなデジタルプラットフォーム間の 利益相反を管理するために事業間の構造的分離を可能にする法律を検討するよう勧めました。 完全な構造的分離がない場合、それが中国の壁を通して、行動と開示の規則で管理するべきだという提案がありました。 そして、その下での3番目の提案は、競争当局を通じて構造的救済を実施することです。 一方で、2番目の提案も必要です。 それは反競争的行為から守ることで先ほどもお伝えしましたがモバイルエコシステムの事前規制を支持する声が高まっています。 おそらくヨーロッパで最もよく知られているのは、EUのデジタル市場法の提案です。 EUでは特定のプラットフォーム、大きな オンラインプラットフォームについて、最も不正行為を起こしやすいオンライン仲介サービスと呼んでいます。 それには、ゲートキーパーと見なされる 4大企業が含まれます。 そして、市場において、特定の高さの敷居と特定の影響力を遵守または満たす必要があります。 ゲートキーパーと見なされた場合、特定の事前標準の禁止事項や義務に従う必要があります。 したがって、第一に、相互運用性を許可し、データの効果的な移植性を提供する必要があります。 また、他の主要プラットフォームの サービスプロバイダーを巻き込む意図的な集結については、欧州委員会に通知する必要があります。 その反対側に英国があります。 英国ではデジタルマーケットユニットが設立され、戦略的な市場地位(SMS)にある企業を特定するための規定があります。 そうした企業は、実質的に定着した市場支配力を持つ企業です。 SMS企業と見なされたら、特定の行動規範の対象となります。 しかし、英国とEUの提案の違いは、英国のほうには、よりカスタマイズされた行動規範があることです。 それは、特定の会社用に 行動規範を加減するということです。 しかしその代わり、SMS企業には、すべての取引をCMAに報告する義務があります。 そして最後。これも消費者データを保護する方法として、かなり大きな討論が繰り広げられています。 これに関して、競争法だけでなく、 データプライバシー保護法から採掘する、または相乗効果を得る必要があるという世論が高まっています。 そして、後でまた話しますが、我々、政策立案者も注意する必要があります。 クロスマーケット・プラットフォームの競争を制御または促進するための競争法を提案する際には、データやプライバシーへの影響についても考慮する必要があります。 最後に、今の点をまとめさせていただくと、これらの政策提案から生じるであろう費用と便益を評価する必要があります。
大軒 敬子:
レニさん、比較視点を共有してくださり、 有難うございました。 また、事前規制についても少しお話くださいましたね。 それは、日本がすでに検討中のトピックの1つでもあって、将来どのように使用できるかを検討しています。 そして龍哉さんは取引透明化法 について触れられました。 そこで龍哉さん、取引透明化法についての 見解を共有していただけますか。
角田龍哉:
大変有難うございます。 敬子先生とレニさんが話されたように、モバイルエコシステムでユーザーを保護する方法は色々とあります。 そして、それは各管轄区域で決めることです。 したがって、一方では、競争やイノベーションを促進することになると、ビジネスプレーヤーの予測性、または法的確信を保証することが重要です。 その意味で、競争法や方策が消費者やユーザーの保護の問題に対処している場合にも、それが信頼性のあるものか、プライバシー保護法などの他の専門的な条例により作成された基準線を反映する必要があります。 日本には電気通信事業法があります。 それは、ユーザーのプライバシーなどの 通信向けのデータを直接、または規制で保護するものでもあります。 また、消費者の快適さを守る条例や不実表示に関する条例などの消費者保護法も適切なものがあります。 これらの他の規制や制度は、 特定の種類、または特定の側面や観点からのユーザー保護に関する調査に基づいた、広範囲にわたる政策の議論を通じて開発されました。 したがって、これらの制度が独占禁止法の施行または適用の際には基準線を提供するべきなのです。 そうです、そうすれば、事業者は洞察を得たり、競争政策を予測したり、ビジネスモデルを修正したり、自己評価を効果的かつ積極的に 実施したりすることができます。 それがこのトピックに関する私の見解です。
大軒 敬子:
龍哉さん、有難うございました。 悠介さん、ユーザー保護に関して、経済的な面から何か共有したいことはありますか。
善如 悠介:
有難うございます。 私のような経済学者にとっては難しい質問です。 経済学者は通常、ユーザー保護については考慮せず代わりに、社会福祉の最大化を考慮します。 そこで申し訳ありませんが、 この質問には答えられません。
大軒 敬子:
大丈夫ですよ。今のお答えも参考になりました。 それでは、悠介さんへの次の質問に移りましょう。 何が選択なのか。 選択もこのセッションの題名の一部です。 選択とは何か、そしてそれは モバイルエコシステムにおいてどうあるべきか、競争法と政策の 観点からいかがでしょうか。
善如 悠介:
了解です。有難うございます。 私は弁護士ではなく競争法の研究者です。 だから、経済学者として話させてください。 より良い選択をできるようになるには、まず、現在のモバイルエコシステムの非常に複雑な状況を理解する必要があります。 でもこれは簡単なことではないと思います。 とても難しいです。 しかし、私たちが取り組む必要のあるもう1つのことは市場の透明性を強化することです。 これは非常に重要なポイントだと思います。 特に、透明性の欠如は広告市場において非常に重大な問題だと思います。 ご存知のように、そして現在の状況の話の中でも述べたように、アプリの手数料は、15%から30%です。 それと対照的に、広告手数料は少なくとも35%です。 アプリの手数料よりもはるかに高いわけです。 それにもかかわらず、アプリ開発者の90%以上が広告収入に依存しています。なぜでしょう? シンプルな質問ですよ。なぜ? 私にもその理由はよくわかりません。 しかし、私の推測では、これは広告市場が非常に不明瞭であり、透明性がないためです。 欧州委員会の報告によると、アプリ開発者は自分達のアプリの 広告スペースに、誰がいくら払ったのか知らないそうです。は非常に悪状況です。 現在の広告市場には全く透明性がないのです。 この状況では、アプリ開発者がより良い選択、今の状態で普通に良い選択を することはできないと思います。したがって、この問題を解決するには、広告、特にモバイル広告市場の透明性を強化する必要があります。 これがこのトピックに関する私の考えです。以上です。
大軒 敬子:
有難うございました、悠介さん。 透明性が重要というお話でした。 私は日本の弁護士として、日本の取引透明化法がうまく 実施されるよう期待しています。 そして、それで日本の問題が解決できれば素晴らしいです。 ではレニさん、これについての見解をお話しください。
Leni PAPA:
はい。 有難う、敬子さん。 私の見解は、悠介さんの今の 透明性の問題に関するお話と非常に関係しています。 現在、そうしたケースが進化する中で 私たちが把握できたのは、消費者の選択は、価格や品質、その他の製品自体に影響を与える要因にはあまり依存していないということです。 その代わりに市場のほかの力の影響を受けていることが分かりましたね。 そして、選択肢のある消費者を分析する際に思い浮かぶ質問は、 第一に、消費者の選択肢が実際にどの程度、情報に基づいているかということです。 したがって、これは透明性と情報に関連しています。 消費者は本当に自分の選択を行使できるのでしょうか。 そして、消費者は自分で選択をする力がある場合、どう行使するのでしょう。 そして、エコシステムの抑制は、消費者の選択の行使にどう影響するのでしょう。 これは、消費者の選択を評価する際に効率基準を置き換えようとしていることを示唆するものではありませんが、その効率基準を分析する際のインプットになります。 したがって、私が複数の管轄区域でもっと探求したいのは、モバイルエコシステム内の特定の慣行が、特にオンラインでの消費者の選択方法にどう影響を及ぼすかをより直接的に認識することです。 そして、効果的な選択をする能力に 対して、有意か人為的な束縛があった場合、それらをより綿密に分析する必要があります。 なぜなら、現職者はおそらく競争により不透明性を壊されることを恐れているからです。 彼らは、消費者がより多くの 情報を得て選択できることより自分達のビジネスモデルを守りたいと考えています。 ですから、この問題には、各国の政策立案に関しても慎重に踏み出さなければならないのです。
大軒 敬子:
有難うございました、レニさん。 モバイルエコシステムは非常に複雑です。 誰もが、競争が重要であるとお考えだと思います。 そして、競争は安定しているべきです。 でも、どうすれば競争は安定するのでしょう。 そして、競争とは何でしょう。 そこで、プラットフォーム間の競争とプラットフォームユーザー間の競争に触れます。 この問題は複雑です。 JFTCを含む競争当局がこれに対処しています。 そして競争法はもしかすると、もちろん、役に立つはずではありますがそれが競争を促進する唯一の ツールではないかもしれません。 そして今日、事前規制と透明性について話しました。 多分、これらが2つ、いや、3つと言うべきですが、おそらく2つの最も重要な鍵となる用語であり、状況は変化してきて、今後もおそらく劇的に変化するでしょう。 それがどうなるか、具体的な見解はありませんが、私は劇的な変化が起こると確信しています。 そして、意見を共有してくださったパネリストの皆さんに感謝します。 では最後に、各パネリストに閉会の言葉をお願いしたいと思います。 日本や世界中のモバイルエコシステムでは様々なことが起こっており、それらの問題について皆がより深く考えることが不可欠となる可能性があります。 では、クロージングにレニさん、見解を共有していただけますか。
Leni PAPA:
有難う、敬子さん。 モバイルエコシステムに関するこの国際的な議論の高まりに関連して、私が締めくくりの一環としてお伝えしたいのは、モバイルエコシステムを綿密に調査することに関して確実に 声が高まっていることです。 そして現在疑問となっているのは、既存の規制措置やツールがこの急速に進化するエコシステムに適切であるかどうかということです。 また、もう一つお伝えしたいのは、おっしゃるように、この問題は競争だけでなく、他の政策分野にも影響を与えるということです。 そこに、プライバシーとデータの保護があります。 また、消費者保護も考慮せねばなりません。 今回それについては話し合いませんでしたね。 しかし、それはメディアコンテンツの提供と報酬にも影響を与える可能性があります。 ですから、この問題が他の政策分野に どのように影響するかには、必要性があると思います。 プライバシーに関与する他の政策専門家も関与する必要があることを 認識しておく必要があります。 私たちはこの分野の知識を独占していません。 また、もう1つ重要なことは、モバイルエコシステムはますます国際化してきているため、皆にとって非常に有益となるのは、政策のオプションを国際協力により話し合うことです。 今、私たちが行っているのと同様に。 繰り返しますが、今回、ここで非常に 有益な議論をしてくださった同僚の皆さんに感謝します。 大いに勉強になりました。
大軒 敬子:
有難うございました、レニさん。 私も全くレニさんと同感です。 特に、国際協力は、デジタル分野では大変重要になるでしょう。 では次に、悠介さん。
善如 悠介:
了解です。有難うございます。 ご存知のように、今のところ、現在の競争環境は非常に複雑です。 そしてまた、競争はダイナミックです。 したがって、この複雑な状況の将来については誰にもわかりません。 しかし、私たち経済学者と競争政策研究者は、この点に関して最善を尽くさなければなりません。 そして実際、現在、テクノロジー企業は事業領域を拡大しています。 その動きは状況をますます複雑にするでしょう。 もしそうなら、より良い政策立案を作成するためには、個々の市場を見るだけでは不十分でしょう。 そこで私たちは、モバイルエコシステムについてもっと視野を広げる必要があります。 もちろん関連したプラットフォーム市場についても。 しかし、この挑戦は簡単ではありません。 そのため、世界中で、さらなる議論が多々必要です、アジア、ヨーロッパ、北米だけでなくて。 以上が私の今の結論です。 ご清聴ありがとうございました。
大軒 敬子:
悠介さん、有難うございました。 龍哉さん、閉会の言葉をお願いできますか。
角田龍哉:
有難うございます、敬子先生。 2点、お伝えしたいと思います。 最初の点は、透明性に関してです。 このセッションでも観たように、透明性はモバイルエコシステム業界で流行語になりつつあります。 そうは言っても、最初に述べたように、エコシステムの運営社はそれ自体にエコシステムを設計することができます。 それは私たちの行動に大きな 影響を与えるかもしれません。 したがって、透明性を促進する実装や対策が今後さらに増える可能性があるとしても、そうした対策が透明性を促進または保護するための関連性を本当に持っているかどうか、慎重に検討する必要があります。 言い換えれば、レニさんがおっしゃったように、Google ショッピングの事例を参照することによって、管理などの措置の背後に隠された目的があるかどうか。 そしてもう一つのポイントは、規制当局がこの種の問題にどのように取り組むべきかということです。 管轄区域として、日本はモバイルエコシステムの競争関連の問題に対処するための規制ツールも開発しています。 しかし、これらのツールは一般的に、大手企業間のコミュニケーションまたは協力に基づいています。 EUのように高額の罰金を課すことによる厳しい執行アプローチではありません。 これは日本の規制制度の歴史的な傾向ですので、このアプローチが日本の国内企業だけでなく、外国企業にとっても効果的なのかはわかりません。 したがって、将来、日本の当局がこのアプローチを追求する場合、当局側の透明性も確実にすることが重要です。 彼らは、合理的かつ客観的な証拠、そして説得力のある議論を、 私たちと同様な懸念を共有する可能性のある外国企業、異なった文化や背景をもった外国企業に対し示さなければなりません。 それが私の閉会のコメントです。 有難うございました。
大軒 敬子:
龍哉さん、有難うございました。 ここで、有意義な議論をしてくださった パネリストの皆さんに感謝したいと思います。 とても面白いディスカッションでした。 またオフラインでも連絡を取り合いましょう。 また、非常にホットなトピックについて話し合う絶好の機会を提供してくれたCPIにも感謝します。 有難うございました。
Featured News
Breaking Up Google? DOJ Floats Major Remedies in Search Monopoly Case
Oct 9, 2024 by
CPI
Walmex Awaits Antitrust Ruling as Mexican Regulator Probes Alleged Practices
Oct 8, 2024 by
CPI
Crypto.com Sues SEC, Alleging Regulatory Overreach in Crypto Industry
Oct 8, 2024 by
CPI
Elite US Universities Face New Antitrust Suit Over Financial Aid Practices
Oct 8, 2024 by
CPI
Kirkland & Ellis Strengthens Antitrust Practice with New Partner from FTC
Oct 8, 2024 by
CPI
Antitrust Mix by CPI
Antitrust Chronicle® – Refusal to Deal
Sep 27, 2024 by
CPI
Antitrust’s Refusal-to-Deal Doctrine: The Emperor Has No Clothes
Sep 27, 2024 by
Erik Hovenkamp
Why All Antitrust Claims are Refusal to Deal Claims and What that Means for Policy
Sep 27, 2024 by
Ramsi Woodcock
The Aspen Misadventure
Sep 27, 2024 by
Roger Blair & Holly P. Stidham
Refusal to Deal in Antitrust Law: Evolving Jurisprudence and Business Justifications in the Align Technology Case
Sep 27, 2024 by
Timothy Hsieh